ブログ
「ほぼ」100均のもので作る手作り地震計(第三回)

当社が製造している電磁式地震計(SD型検出器、PK-110型検出器)の原理を一般の方にも簡単にご理解いただけるよう、身近に手に入る材料を使って地震計ができないか?という話が持ち上がり、100均で手に入るもので地震計を作るプロジェクトがスタートしました。
(地震計の仕組みについては、「地震計の仕組み(当社SD型検出器の特徴)」を合わせてご参照ください。)
但し、現時点では性能面の問題で、全てを100均調達品で済ますことができず、一部、ホームセンターで調達したものも使用しています。
第二回の記事はこちら
今回は色々試してみれる、改造しやすい、加工性汎用性の高いものとして工作用紙で検出部を作成してみました。
引き続き100均で揃う材料、道具で製作していますが、コイル用の導線だけは社内在庫から確保しました。
見ての通りシンプルな箱です。
内側と外側にそれぞれ4個ずつ引き合う向きにダイソーのネオジム磁石(中)を取り付け、
その磁石の間を通るようにコイルを配置します。
内側の磁石は反発する向きに密集しているため取り付けは多少苦労しますが、スチール製のヘラ等あると多少取り付けやすくなります。

組み立てイメージ
磁石の配置はこの手の手作り地震計や電磁誘導を学ぶ学習教材としては珍しい形をしていますが、
これは実際の地震計に用いられる磁気回路をイメージしています。
磁気回路は磁石を透磁率の高い金属で挟み電気回路の様に磁力を誘導してコイル部分に効率的に働く様にしたものです(図1)

図1:磁気回路の模式図
よく見る磁石を直列に繋いでコイルに通す構造では磁石の位置によって貫く磁束が変化してしまい出力が安定しません。
こういう形状で磁束の通り道を制限することで振動によって変位しても磁束の通る空間のほぼ全てをコイルで覆い続けることができ信号の出力が位置によらず安定します。
なんとか100均のレベルで磁気回路を作ろうと思うと、アルミ板や貯金箱等に使われているスチール板、あとは固定用の金属プレートくらいしか使えそうな材料がなく、
流石にそのレベルを超えた金属加工は手作りの域を超えてしまうため擬似的に再現できないか検討しました。
(そもそも電気信号をデータとして取り込む部分が手作りではない話は横に置いておきましょう)
その結果がネオジム磁石を引き合う向きに並べることで磁束を磁石の範囲に集中させる構造です。
コイルは磁石のサイズより±5mm程度大きく作ってあり、その範囲内であれば位置によらず速度のみに比例した出力を期待できます。
さて、磁気回路を再現したまでは良いのですがコイルと磁石の振動を電気信号に変換する部分だけですのでこれだけでは地震を計測できません。
しかし工作用紙で作っていますので工夫次第で様々な機構の地震計を作り取り付けられる高い汎用性を保持しています。
やろうと思えば前回の磁石コイル部をこれに置き換えることもできますが、折角ですので工作用紙でどこまで出来るか色々と試行錯誤しました。
結論を言うと工作用紙には強度の問題があり、またバネをどうするかといった問題を解決できずに観測に至りませんでした。
良さそうなものができましたらご一報いただけると幸いです。

P波センサを参考にした工作用紙の板ばねを使った例

ボールペンのバネを竹籤で釣った例

ストロー用の掃除ブラシを使用した例

プルバックカーのゼンマイを利用した例
機構の話をしたので手作り地震計を作る上での課題をいくつか紹介いたします。
前回の手作り地震計もいくつか大きな課題を抱えています。
・バネの非線形性(F=kxにならない)、固体摩擦の存在、非常に弱い粘性抵抗等の理論上理想的な状態からの乖離
(地震計の理論的な背景については「地震計の物理学」をご覧ください」)
・磁石コイル部の非対称性、筐体の余計な歪みや振動とそれによる想定外の共振や重心位置の変動
こういった問題は地震計発展の歴史を辿る様でもありまして、博物館に展示されているような昔の地震計が非常に参考になったりします。
例えば固体摩擦、いわゆる摩擦の存在です。
特にドラム紙に針やペンで振動を記録していた時代には、そこにかかる摩擦をはじめ各所で働く摩擦の影響を相対的に小さくするために錘が大型化しました。
大きいものでは1tもの錘を使っている様です。
電気的に信号を拾える様になって現代ではこういった問題はかなり解決しました。
といっても解決したのは実観測に使えるちゃんとした地震計の話であり、手作り地震計のサイズや精度では大きな問題になります。
実際前回のものでも引っかかるような挙動が見られました、減衰も粘性抵抗というよりは固体摩擦の影響が強いのではないかという疑念がありました。
今回作成した工作用紙の地震計も、中心に穴を開け竹ひごの支柱にボールペンのバネを引っ掛け吊るす形のものは、穴と竹籤の干渉が無視できませんでした。
他にも昔弊社でエレベーター用に製造していたP波センサーをモデルに工作用紙をボンドで固めた板ばねで釣竿の様に釣ったタイプも作成しましたが、
・内部摩擦の問題で理想的なバネにならない
・時間経過であっさりヘタってしまう
等々の問題がありうまくいきませんでした。
工作用紙はもっと大きな問題も抱えていて、磁石の強さに耐えられず箱が歪んでいく現象が見られ、根本的な構造の再検討をする必要がありました。
そうはいっても短期的にちょっと遊んでみるには十分お手軽なものですのでよければ作ってみてください。